◯ポケモン深夜族
つくばの進学塾「竹進」国語担当の尾高です。
およそ十年前、つくばに引っ越してきたばかりの頃の話です。
大学院が夏休みに入って間もないある夜のこと、住まいが突然の停電に
見舞われました。
そのまま外に出てみると、街灯も家々の灯りもすべて落ちてしまって
真っ暗な中、不満や驚きを口にしながら、同じように飛び出して
きた人々がぞろぞろとわが家の前の細道をさまよっています。
学生向けのアパートがひしめいている一帯ですが、このように一斉に
大勢の人たちが外に出てくることは滅多にありません。
当然一人一人の顔は闇に隠されてしまっています。
たとえば、すぐかたわらにいる人と翌日の真昼に同じ道で偶然すれ違った
としても、一体誰なのかわからないでしょう。
とても近くで暮らしているにも関わらず、こういう風に集まる機会は
二度と訪れないであろう人たちの塊の中に、今、自分も紛れ込んで
しまっているのです。
そんな状況に不思議な胸の高鳴りをおぼえながら、私は人々の行き交う
物音にじっと聞き耳を立てていました。
こんなことを思い出したのも、「ポケ〇ンGO」のせいです。
週末の深夜、つくば駅のそばのペデストリアンデッキで自転車を漕いで
いると、スマートフォンを片手にゆらゆらとした足どりで、ポケ〇ンを
狩っているとおぼしき人たちにたくさん遭遇しました。
スマートフォンの灯りに照らされているとはいえ、一人一人の表情は
よく見えません。
ああ、あの停電の夜にそっくりだなあ、と懐かしさのような感情に
揺さぶられました。
停電というできごとの代わりに、今度はゲームでうっすらと繋がっている
人々の輪が、自分の前に広がっているのです。
帰宅してすぐに、自分のiPhoneに「ポケ〇ンGO」のアプリをダウンロード
したことは書くまでもないでしょう。